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大分地方裁判所 平成11年(モ)539号 決定

申立人(原告)

大分瓦斯株式会社

右代表者代表取締役

福島親比古

右訴訟代理人弁護士

内田健

山本洋一郎

相手方(被告)

別府税務署長 小野應治

右指定代理人

高橋孝一

和多範明

曽根崎仁志

五嶋繁喜

渡邊康博

八川敏明

村上憲央

秋岡隆敏

田川博

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  本件申立ての趣旨

本件申立ての趣旨は、相手方が申立人に対し平成四年六月二九日付でなした昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び平成六年六月二九日付でなした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をなすに当たって、相手方が調査に基づき作成した法人調査準備書、調査事跡簿、反面調査結果書及び本件更正処分に際して相手方が作成した所得調査等要約書、更正処分決議書(ただし、同業五社から各月のブタンガスの仕入価格を調査収集した部分に限る。)(以下「本件各文書」という。)を当裁判所に提出せよとの裁判を求めるものである。

二  当事者の主張

1  申立人の主張

本件各文書は、民訴法二二〇条三号前段の「挙証者の利益のために作成された文書」又は同号後段の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書」に該当する。

2  相手方の主張

(一)  民訴法二二〇条三号前段の「挙証者の利益のために作成された文書」とは、挙証者の(法的)地位や権利もしくは権限を証明したり、基礎付ける目的で、あるいは、挙証者の権利義務を発生させる目的で作成され、挙証者の(法的)地位や権利もしくは権限を明らかにするのに役立つ文書と解され、また、同号後段の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書」には、所持者がもっぱら自己使用のために作成した内部文書は含まれないと解するべきであるところ、本件各文書は、相手方がその税務調査に関して作成した内部文書であるから「挙証者の利益のために作成された文書」及び「挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書」には該当しない。

(二)  民訴法二二〇条に定める文書提出義務を負う文書所持者には、民訴法一九一条、一九七条一項の規定が類推適用され、文書所持者に守秘義務がある場合には、文書提出義務を免れると解するべきであるところ、本件各文書の記載内容は、職務上知り得た事項であり、相手方は、国家公務員法一〇〇条、法人税法一六三条及び消費税法六九条に基づき、守秘義務を負い、文書提出義務を免れる。

三  当裁判所の判断

1  民訴法二二〇条三号前段の「挙証者の利益のために作成された文書」とは、挙証者の地位や権利又は権限を証明したり、基礎付ける目的で、あるいは、挙証者の権利義務を発生させる目的で作成され、挙証者の地位や権利もしくは権限を明らかにするのに役立つ文書を指し、その作成目的については、作成者の主観的意図、当該文書作成の経緯、記載内容、文書作成義務の有無等の請求要素を総合して客観的に判断するものと解するのが相当である。

2  また、同号後段の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書」とは、挙証者と相手方との間の法律関係それ自体を記載した文書及びその法律関係に関連のある事項を記載した文書を指すが、文書の所持者又は作成者が専ら自己使用の目的で作成し、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示により所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、これに該当しないと解するのが相当である。

3  一件記録によれば、本件各文書は、専ら相手方において本件更正処分を適正に行うため、本件更正処分に関する事務処理の過程で作成されたものであり、外部の者に公表することは予定されていないし、申立人と同業である五社がブタンガスを仕入れた際の仕入価格を調査した結果が記載されたものであり、右は業務上の秘匿事項に属するものと認められるところ、かかる結果が公表されることになれば、今後、相手方が税務処理の適正のために調査を求めても、調査対象者が個人情報が公表されることなどをおそれて調査に応じなくなり、相手方に看過し難い不利益が生じるおそれがある。加えて、本件各文書は、法令によりその作成、管理を義務付けられているものではない。

4  そうすると、本件各文書は、申立人の地位や権利又は権限を証明したり、基礎付ける目的で、あるいは、申立人の権利義務を発生させる目的で作成されたものではないから、「挙証者の利益のために作成された文書」に該当せず、また、相手方が専ら自己使用の目的で作成し、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示により相手方に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められ、特段の事情も存しないから、「挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作成された文書」にも該当しない。

四  以上のとおり、本件文書提出命令の申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 脇博人 裁判官 小松本卓)

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